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  • 2018.02.27 Tuesday

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    よわむしなピンキーリング chapt.23

    • 2009.01.27 Tuesday
    • 00:47
     若宮さんは確実にぼくの様子に気が付いていない。
     そりゃそうだ。聞くって言った打ち明け話を心の中で一生懸命拒否してるなんて知られたくない。
     というよりも、知られるわけにはいかない。
    「ちょうど一年が入部してきた頃からかな。なんか急にそっけなくなってさ。帰りも一緒に帰る事もなくなったし、一緒にいても口数が減ってきたし。なんていうの? 避けられてるって言うかさ」
     淡々と言葉を続ける若宮さん。
     本当に淡々と話してるのかな。きちんと聞いてはいるつもりだけど、ぼくは心の中で耳から入ってくるものを色々とそぎ落としてる。
    「なんとなく分かってはいるんだ。あいつは私の事なんかもう好きじゃないんだって。部活でさ、一年の女子と話してるを見てるとそんな気がするんだよ。――被害妄想みたいなものかもしれないけどさ。馬鹿だな……。で、突っかかったのは私のほうからなんだ。あいつが避けてるみたいだって言ったんだよ。そしたら、なんか馬鹿みたいなケンカになって。向こうも私が愛想ないって言って。それで……」
     若宮さんは深くため息をつく。すごく深く。
     ぼくもそんな様子を見て、ため息をつく。
     きちんと言葉を聞けていないんだけど、それでもなんか中途半端にでもずっしりと重たく耳の奥にたまっていく若宮さんの言葉がぼくの呼吸をどんどん苦しくしていく。
    「君までため息つくことないよ」
     若宮さんは苦笑いして言う。
    「つられた? ごめんな、なんかさ、こんな話を聞かせるなんて」
    「あ、いえ! ……大丈夫です。それよりも若宮さんこそ、その、なんか話して辛くないかなって……」
     ぼくはすごくとっさって感じで途切れ途切れにそう言った。どうしよう、すごく変な態度ばかりだ。
    「まぁね。ついこないだだし、今の状況を言うたびに思い知っちゃうから辛いよ」
     若宮さんはぼくの言葉に力なく答える。
     なんか、凛とした若宮さんは今はすごく小さく見える。
     きっと、それだけ彼氏の事を好きって事なんだろうね。あくまでぼくの想像だけど。
     そう考えると、たった今、気が付いたぼくの片想いはすごく無意味だって嫌ってほど思い知ってしまう。
     よく知りもしない人を勝手に好きになって、それで素性を知れば無意味。さっき、若宮さんは自分の事を馬鹿だって言ったけど、ここで一番馬鹿なのはぼくだ。
     それに、自分の目の前で苦しんでる人がいるのに、話を聞く振りしてこっそり心の中で耳を塞いでるなんて最低だよ。
    「それにしても――」
     若宮さんは立ち止まってぼくの顔を覗き込んだ。
    「君は本当にいいやつだな。小阪くんの彼女がうらやましいよ」
     若宮さんは力が抜けたようなちょっと頼りない笑顔で言う。
     え?
    「あ、えっと?」
     ぼくは若宮さんの言葉の意味が分からずに電池が切れたおもちゃのロボットのように固まってしまった。
    「なんかさ、仲よさげに一緒に学校に来てるの見てさ。一昨日だったよな、あれは」
     あ、もしかして。
     そうだ、一昨日、学校に入る前に若宮さんと飯沼さんに会ったんだ。そうか。
    「もしかして、あの時、一緒にいた……」
    「かわいい子だよな。あんな時期が私らにも――」
    「――違います!」
     ぼくは自分ではそんなつもりないのにすごく強い口調で言った。
     今度は若宮さんが目をパチパチ瞬かせて固まった。
    「ゆっきは――あの子は友達です。というか、あの子には彼氏いますから」
    「そうだったの?」
    「はい」
    「ごめん。そうか、私、勘違いしてたんだな。申し訳ない」
     気まずそう。そんな感じがはっきり分かる恥ずかしそうな表情で若宮さんは言う。
    「仲よさそうだったから。どうも、私はそういう感が働かなかったり間違ったりなんだよな……。ごめんな」
    「いいですよ」
     そっかぁ、そんな風に見られてたんだな。
    「いや、小阪くんには申し訳ないけど、すごくうらやましいなって思って実はずっと君らの事を考えてたんだよ。はぁ、ますます私は馬鹿だ」
     恥ずかしそうに顔を覆うと少し間をおいて若宮さんは軽く下唇を噛んだ。何かをこらえるみたいに。
    「別れたくなんかないんだ……」
     すごく小さな声。若宮さんはあと少し、河川敷の野球場で野球をしてる小学生の子たちの声が大きかったら聞こえなかったくらいのかすかな声で言った。
    「でも、たぶんそうなる……。もう、やめよう、こんな話」
     そう笑顔で言った。
     ぼくは勝手に強い人だと見てた若宮さんが必死に隠してるけど、発作か何かが起こるみたいに泣きそうになってるのに気が付いてあわてて代わりの話題を頭の中から探し始めた。
     でも、それと一緒に考えた事はすごく最低な事だった。「別れそう」って知った時にちょっとだけ、「希望」だって思ったんだから。
     馬鹿なのはぼくだ。


    JUGEMテーマ:自作小説

    よわむしなピンキーリング chapt.22

    • 2008.11.26 Wednesday
    • 23:46
     どこに行くって話もなく、ぼくたちは何となく川沿いのサイクリングロードを歩いていた。この時間は僕たちのように下校している中高生、ボールなんかで遊んでいる小学生くらいの子たち、散歩してるおじいちゃん、おばあちゃん、色んな人でにぎわっている。
     何かを話そうとしていた若宮さんだったけど、なぜかここに来るまでの短い時間の話はぼくと飯沼さんがどこで知り合ったのかとか、そういう事だった。
     若宮さんと飯沼さんは小学校の頃からの付き合いだけど、高校生になってからは若宮さんが部活、飯沼さんがバイトで忙しくて、クラスや週末に会う以外でどうしてるのかをまるで知らないんだって。
     ぼくは飯沼さんとはcharm*でバイトを始めた頃に、たまたま飯沼さんのバイト先のコンビニに寄った際に話しかけられたのがきっかけ。あの時はたまたま他にお客さんがいなかったから、「雑貨屋さんの人でしょ?」って話しかけられてそれからしばらく、あの頃に新しくでた小さなテディベアのマスコットがついたペンの話をしたんだ。
     それから、学校で会うたびに立ち話をするようになって、charm*に来た時も色々話したりするようになったんだ。付き合いは短いけど、ゆっきや朝子以外のクラスメイトより仲がいいかもしれない。
     お互いの事をよく知らない部分も多いんだけど。
     あ、ちなみに飯沼さんは少なくともぼくと初めて話した時には女の子に間違えなかったんだよ。
     それはそうと、若宮さんはぼくの話をしばらく聞いているとなんだか考えているようなそぶりを見せた。
    「あのさ、あれから由実に会った?」
    「いえ。今日は一度も教室のまわりから動かなかったですから」
    「そっか」
    「何かあったんですか?」
    「あ、いや、なんか話し聞いてたりしたのかなとか思って」
    「いえ、何も。会ってないですからね」
     ぼくはあえて笑ってそう言った。でも、ぼくは内心、何を話されるのかが気になって変な笑い方をしてるかも。
    「恥ずかしい話なんだけどさ、これ、先週、ドジ踏んでやっちゃったんだよ。ちょうどこの近くだな。君みたいに自転車で来てたんだけど止まってる車が開けたドアにぶつかってさ」
     若宮さんは恥ずかしいのか照れ笑いしながら言った。
    「男前とかクールとか言われてる私がこれだもん。まさに、笑い話だよな」
    「それは……」
     ぼくはさすがに同意するわけにもいかないので、中途半端な言葉で誤魔化す。
    「ほとんど私の不注意でさ。考え事しながら自転車こいでた私が悪いんだよな。ほら、『注意一秒、ケガ一生』って言葉あるだろ? まさにあれ」
     そう言って、若宮さんはギプスに包まれた右腕を見せる。「ま、私の場合、一ヶ月くらいだけど」なんて言いながら。
     なんか、若宮さんって頑丈な人なんだな。結構、ケガの事を面白がって言ってるけど、ぼくなら絶対に無理だよ。話を聞いてて体がうずうずするような感じがするもん。
    「下らないミスのおかげで、剣道も出来ず、出来ない事だらけになって大変だよ。情けないしな。でも、これでよかったのかもしれないな。こうやってさ、授業が終わってから何にもしないでこうやって君とダベってるのもいいものかもな」
     若宮さんはリゾート地で羽を伸ばすような言い方をする。でも、その声にはどこか悲しい感じが見え隠れしてるように見える。
     すごい違和感……。
    「考える時間が欲しかったしな……」
     急に声のトーンを落として言う若宮さん。ぼくはその様子に思わず「えっ?」って声をあげた。
     クール。そう、そんな風に言われる事も多いし、イメージが覆されてもその言葉だけは離れて考えられない。でも、そんな事をまるごと否定するように若宮さんは小さな子供に戻ったかのように頬を膨らませて不機嫌そうな顔をした。
    「ねぇ、小坂くん」
    「はい?」
    「さっきも言ったけどさ、この事をを誰にも言わないで欲しいんだ。あんまり格好悪い話でさ」
    「ドアにぶつかった事ですか?」
    「いや、その事じゃなくて。これから話す事」
    「あ、すいません」
     ぼくがとっさに謝ると、若宮さんは「やっぱり君はおもしろいな」って言って小さく笑う。ぼくもなんだか自分の勘違いがなんだかバカみたいで笑いそうになったのをこらえる。
    「私さぁ……」
     若宮さんはぼくが笑いをこらえている間にそのまま話を続けた。
    「このケガした日に、彼氏とケンカしたんだよ」
    「そうなんですか……」
     ぼくは若宮さんの言葉を聞いて深く考えずにあいづちを打った。
     でも、「あれ?」って思って、耳に入った言葉をもう一度確認した。そう、「彼氏とケンカ」って言ったよね?
     そっか、若宮さん、付き合ってる人いるんだ……。
    「ちょっと前からギクシャクしてたんだけどな。でも、実際、言い争うといろんな事がショックでさ。それで、帰り道もその事が頭を離れなくてちゃんと前を見てなかったんだよ。バカみたいだろ?」
     若宮さんは早口で一息に言う。
     ぼくは話を聞いていたけど、なんだか体の力が抜けた上にどこか重たくなったような感覚に邪魔をされて若宮さんの方を見たまま黙っているだけだった。
     何やってるんだよ? 今、目の前で悩んでる事を自分の事を信用して話してくれてる人がいるっていうのに。
    「で、こうやって休部しなきゃいけない状態ってかえってありがたいなって。剣道が出来なくて辛いってのはあるけどさ。あ、そうか。ごめん、いきなりこんな事、言ってもわからないよな。私の彼氏って部活一緒なんだよ」
     若宮さんは話しながら、お互いよく知らない知り合い同士だって事に気を使いながら言葉を選んでる様子だ。
     多分、いつものぼくならあれこれ話の合間に質問したりして、相手が話しやすいようにしてあげるんだと思う。実際、ゆっきや朝子、育枝とかいろんな人の話を聞くときはそうしてる。
     でも、今日はどうしてかそうする事ができない。なんか、頭のそうする働きをする部分にブレーキを付けられたような感じ。
     ぼく、すごく動揺してる。
     だって、ぼくは気づいちゃったんだ。朝子の言うとおりに若宮さんに片想いをしてるんだって事に。いや、違うな。誰かを好きって事がどういうことかって事に気づいたんだ。
     だから、今、若宮さんから「彼氏の話」を聞かされる状態からどこか逃げたいって思わずにはいられない。でも、どうしよう?


    JUGEMテーマ:連載


    よわむしなピンキーリング chapt.21

    • 2008.11.11 Tuesday
    • 23:56
     ギプスとアイスで両手がふさがっている若宮さんの為にぼくは先に行ってドアを開けてあげた。
    「ありがと」
     そう言って、若宮さんは先に出ると「アイス、気をつけてな」って言った。
    「はい?」
    「閉めようとして、ドアにアイスをぶつけないようにさ」
    「そんなにドジに見えますか?」
     あまりにとっぴな事を言うから、苦笑いしながらドアを閉めてすぐに若宮さんの方を見た。
    「いやぁ、類は友を呼ぶっていうのかなって」
    「何ですか、それ?」
    「どっかにそういう事をする人がいるんだ。君と仲良くなれそうな――いや、実際、仲よさそうだな」
    「飯沼さんですか?」
    「そうそう。あいつ、実際にドアにアイスぶつけて大騒ぎしてさ。『あたしの体はアイスで出来てるの!』とか言って。おかしいだろ?」
    「それはすごい……」
     飯沼さんがアイスをダメにしたショックで大暴れしてるのは簡単に想像できる。普段からノリのいい人だと思うけど、勢いがありすぎて暴走するって本人が言ってからね。実際、ぼくが飯沼さんのバイトしてるコンビニに言った時に、レジで長話はじめてぼくが気が付いて止めた時には後ろに列が出来てた事もあったし。
    「まぁ、そんな事はしないよな。普通」
    「そうですね。ぼくも、しないかな」
    「そっか」
     若宮さんは「よかった」と言わんばかりに首を何回か縦にふって、アイスを食べる。
     それにしても。
     こうやって、普通に飯沼さんの話を出すって事は別にあれから仲が悪くなったとかそういうんじゃないって事だよね? じゃなかったら、こうやって話題に出したりしないだろうし。
    「由実と仲良くなるくらいだから、同じような行動パターンなのかなって思ってたけど、君の場合は私とは違う意味であいつと逆なんだろうな」
    「って言うと?」
    「女の子女の子してるのは一緒だけど、君はすごく落ち着いてる。まぁ、ドジではあるだろうけどな」
     最後の言葉をぼくに気を使ってなのか、冗談めかした言い方を強調して言いながら若宮さんはアイスのなくなったコーンを口に向けたまま言う。
    「男ですけどね」
     ぼくも冗談めかした言い方で返す。
    「こりゃ、失礼。にしても、さっきの様子を見てるとさ、確かに私は『女の子として』は君に負けてるわ。なんて言うんだ? 私が男で君が女なら丁度いいっていうのかさ」
     それは言えてるかも。確かに若宮さんもアイス屋のおじさんの言い方を真似るなら「男の子じゃないのが惜しい」って感じがするもん。
     だって、ぼくらは制服着てるし、若宮さんは髪が長いから少なくとも若宮さんが女の人だって分かるだろうけど、仮に若宮さんの髪が短くてぼくが一昨日みたいにお姉ちゃんの服を着てて、若宮さんがジーンズにジャケットって格好だったりしたら完璧にぼくが女子で若宮さんが男子に見えると思うんだ。
     実際にぼくはさっきみたいに女の子に間違われる事も多いからね。
     だから、若宮さんがぼくをエスコートしてたら普通に……あ、今のは無し!
     うっかり、余計な事、考えちゃったよ。
    「おい、どうしたんだ? なんか、百面相になってたぞ」
    「あっ……!」
     ぼくは頭に浮かんだ余計な事に動揺して固まった。どうしよう、今、絶対にぼくって変だ。
    「もしかして、心配させちゃってたか? 昨日のこと」
     若宮さんはそれまで笑っていた目を伏せて言った。ぼくは動揺の理由を知られなくてよかったなんてあんまりよくない事を考えながら、無くなったと思った懸念を掘り起こした。
    「はい、正直」
    「そっか。まぁ、そうだよな。ごめん」
    「あ、いえ、そんな!」
    「由実が怒ったところなんて見たことないだろ?」
    「そうですね」
     それはぼくと飯沼さんが友達って言っても「お互いのよく行くお店の店員同士」っていうくらいの関係だからなんだろうけど、いつも騒がしいくらいに明るくしてる飯沼さんの様子にびっくりしたのは本当。
    「めったに怒らないんだけどな。いきなり、ああやって怒る事もあるわけだよ」
     そう言った後、若宮さんは残ったコーンを一気に食べた。そして、少し、そういう仕草をしたのを見ていないと分からないくらい姿勢を低くしてぼくの顔を覗き込んだ。
    「そんなに心配するなよ。なんか、主人に怒られて耳をたれてる犬みたいだぞ。大丈夫、ちゃんと仲直りしたからさ」
     若宮さんはまるで泣いている子供をあやすみたいな口調で言った。そして、自由になった左手を腰に置いてちょっと少し何かに迷っているような目をする。
    「謝る事は謝ったんだよな。私にも原因はあるわけだし。心配してくれてたんだしな」
     少し沈黙があって、若宮さんはガードレールの向こうの住宅地の方を見た。
     ぼくからはそんな若宮さんの横顔が見える。
    「いろんな事あったから、心配させちゃってたんだよな。……小阪くんって、こういう話苦手?」
    「こういうって?」
    「誰かに話したい気分だから。内緒にしてってお願いしていいか?」
     若宮さんはぼくが聞き返した事をそのまま流して、そう言った。
     なんだろう? ケガの理由とか、一昨日の夜に話してた内容とか、女の子らしくなろうとしてる理由とかそういう事?
     断片的に色んな事を見たから話してくれるなら、聞きたいって思うけど。
    「大丈夫です。ぼく、口堅いですから」
     ぼくが思いついた言葉はそれだけだった。
    「なら信用しようかな」
     そう言って、今度はぼくらが来た道と反対側の下り坂の方を向いた。
    「さすがにここにずっといるのも変だろ。歩きながらにしよう……っとその前に、アイス、食べちゃえよ。あんまり悠長にやってると溶けてくるぞ」
    「そうですね」
     ぼくはなんか、そこにも飯沼さんの面白いエピソードがあるんじゃないかっていう想像が頭をよぎって笑いそうになった。
     でも、内心、これから若宮さんが話す事がどういうわけか、ぼくに関係ない事だってのは分かりきってるのに怖いようなそんな風に思えていた。


    JUGEMテーマ:連載


    よわむしなピンキーリング chapt.20

    • 2008.11.05 Wednesday
    • 23:37
     「どうも!」
     若宮さんはドアを開けると、ドラマなんかでサラリーマンの人が行きつけの居酒屋か何かに入るみたいな感じでお店の人に挨拶をした。
    「お久しぶりです」
    「おっ、久しぶり! しばらく見なかったねぇ」
     中にはあちこちのアイス屋さんでよく見かける大きなガラスの天井のついた冷凍庫とその向こうにいるまるで山小屋で薪割りでもしてそうな感じの口ひげを生やして頭にバンダナをまいたおじさんだった。多分、この人はこの見せのオーナーとか店長さんとかそういう感じの人なんだと思う。
    「しばらく見ないと思ったら、怪我したのかい? どうしたね?」
    「まぁ、これはちょっと」
     若宮さんは人懐っこくからかうように笑うおじさんに照れくさそうにギプスが邪魔くさそうな感じで首をすぼめてみた。
    「お、お連れさんはいつもと違うね。これはかわいいお嬢さんだ。智ちゃんの友達かい?」
    「まぁ、そんなところです。ただ……」
     若宮さんは笑いながらぼくの顔を見る。
     言いたい事はすごく分かる。だって、このおじさんは若宮さんがつい一昨日やったのと同じ間違いをしてるんだからね。
    「よく足元見たほうがいいですよ」
     すごく意地悪そうに若宮さんは言う。
    「おや? そうか、これは申し訳ないな。男の子だったか」
     おじさんは「いやいや…」なんて照れくさそうに頭をかいた。
    「あ、いえ、おかまいなく」
     ぼくもおじさんの照れくささが伝染したみたいに恥ずかしそうに見えそうな言い方で答えた。
    「まぁ、しかたないですよね。つい、一昨日知り合ったばかりなんですけど、私も間違いましたから。昨日、初めて制服してるの見たときはちょっとびっくりしましたよ」
    「そんな小さくてかわいいならね。それで男の子なのはおしいなぁ」
    「おしいって……」
     面白い人だな。「男の子なのがおしい」って、「女の子みたい」って言われた事は山ほどあるけど、それはさすがになかったな。
    「それはそうと、どうする? 味はあれから増えも減りもしてないけどさ
     おじさんはそう言って冷凍庫の窓を指し示すようにぽんぽんと軽く叩いた。
     ぼくは冷凍庫の前まで行くと窓の中に並べられたアイスを見た。
     すごいな、色んな味がある。バニラとかストロベリーとかチョコレートとかそういう定番のからかぼちゃ、スイートポテト、ミルフィーユなんてケーキみたいなものやら、ダブルクリームとかレアチーズ、ヨーグルトなんて店の前の牛乳樽を思い出させるようなものもある。
     これだけあると迷うよね。味が簡単に想像できるようなものから、どんなのか不思議なものまで色々。これだけあればどれか一つなんて決めるのは相当大変な気がするよ。
    「なんか気に入ったのあったか?」
     ガラスに顔が張り付きそうなくらい食い入って見ているぼくに若宮さんは耳のすぐ近くで内緒話でもするように小声で言った。
    「あ、あの!」
     ぼくはいきなりだったから驚いてビクッとして若宮さんの方を振り返った。
    「君は本当に反応の面白いヤツだな」
     若宮さんは思いっきり笑って言う。
    「あんまり真剣に選んでるから邪魔しないようにって思ったんだけどな。まぁ、いいや。好きなの二つ選びなよ。ここは私のおごりだから」
    「そんなの悪いです!」
    「気にしなくていいよ。ほら、私が食べたいけどひとりで入るの嫌だから連れてきたんだからさ」
    「でも……」
    「それに、ここは年上を立ててほしいなぁ――まぁ、それは冗談としても。いいよ。この間のお礼でもあるし」
    「それも……」
    「いいっての。選びなよ」
    「でも……ぼく、さすがにコーン両手に持ってアイス食べるほど食いしん坊じゃありません!」
     ぼくがそう言うと若宮さんはなぜか目を見開いてパチパチさせた。
    「あー、そういう事か! 違う違う!」
     若宮さんはお腹を抱えて必死に笑いをこらえ始める。
    「別に……コーン両手って。そうじゃないよ、ここのアイスはダブルなんだよ。二段重ね。コーンに二つ乗せるんだよ」
    「あ……」
     若宮さんがちょっと目頭に笑いをこらえて出てきたっぽい涙を浮かべながら説明するのを聞いて、ぼくは急に顔が熱くなるような感じがした。
     ぼく、勘違いしてたのか。わぁ、恥ずかしい……。
    「チビな君がそんなに食べるとは思ってないよ。由実でもあるまいし」
    「飯沼さん?」
    「そう。あいつはバイトの給料日に『両手にアイス』をやってた。しかも、両方とも二段重ね。まぁ、それをやるんなら二つおごるのはきついな。自分で買うなら止めないけど」
    「や、やらないですよ!」
    「だよな。まぁ、それは冗談としても、好きなの二つ選びなよ。これなら一つってのより迷わないだろ?」
     そう言うと、若宮さんはぼくが選ぶのに時間がかかると思ったのかレジの横のフリーペーパーを手にとってパラパラとめくり始めた。
     若宮さんは面白いってぼくの事を言ったけど、若宮さんって結構、マイペースな人なんだな。若宮さんはもう決まってるのかな。
     それにしても、迷う。二つ選べるっていうのがまだ救いだけど、どれもおいしそうに見えるよ。
     どうしようかな?
     冷凍庫を覗き込んで色とりどりのアイスに迷っていたら、ふと冷凍庫の窓ごしに透明な容器に箱からコーンを補充しているおじさんと目が合った。
     おじさんはぼくが視界に入ると口元を緩めて、なぜかぼくと若宮さんを交互に見てうなづいた。
     なんだ? ぼくなんか変なことしてた?
    「決まったかい?」
     おじさんは冷凍庫から身を乗り出してぼくを見下ろして言った。ぼくは声で気がついてふと上を向く。
    「あ、そうですね。あー、はい。決まりました」
    「そっか。智ちゃんはどう? いつものでいいの?」
    「あー、はい。あと、会計はその子の分も払うんで」
    「おぉ。わかった。それで、君の注文は?」
    「あ、はい。えっと、ミルフィーユとレアチーズ、お願いします」
    「はい。お待ちを」
     おじさんは向こう側にあるガラス戸をあけると、アイス屋さんでよく見るハンドルの付いたスプーンみたいな器具でアイスを取り始める。
     若宮さんはその様子を見ると誰もいないレジのカウンターに財布を置いて左手でぎこちなく小銭を出して会計用のお皿の上に置いた。
    「おじさん、お金、置いとくんで。ちょうどですから」
    「お、了解。怪我すると不便だなー。まだギプスとれないの?」
    「まだですね」
    「そっかぁ。大変だなぁ。まぁ、頼れる人いるから大丈夫か」
     そう言って、おじさんはぼくの目をまっすぐみてまたうなずいた。
    「って事で、はい、どうぞ」
     アイスが出来たみたいで、おじさんはコーンに乗せたアイスを二つぼくに渡した。
    「まぁ、ゆっくりしてきなよ。ちょうど、誰もいないみたいだしさ。あと、さっきは女の子と間違ってごめんな。一番言われたくないだろうしな」
     そう言っておじさんはぼくがアイスを受け取るとウインクをした。
     どっちがぼくのアイスでどっちが若宮さんのかを確認して、若宮さんの方を見たとき、おじさんの言おうとしてる事が少しだけ分かった気がした。
     どうやら、おじさんはぼくを若宮さんの彼氏か何かだと思ってるみたいだ。
     できれば、今日はやめてほしい誤解。朝子の言った事にどの道、向き合わないといけないシチュエーションが次々とやってくるんだから。
    「どうぞ」
     ぼくは平静を装ってアイスを若宮さんに渡す。
    「お、ありがと」
    「あの、本当によかったんですか?」
    「うん。遠慮せずに食べなよ」
    「ありがとうございます」
     ぼくがお礼を言うと若宮さんはすでにアイスを一口食べてて、しゃべれないからなのかうんうんと嬉しそうにうなずいた。若宮さんはおじさんの誤解に気が付いてないみたいだし、当然だけど昼の朝子の言った事なんて知るわけないからすごく普通にしている。
     そうだよ。別にどうって事なんてないんだよね。まわりがなんと言おうと、ぼくは若宮さんにとっては「たまたま捕まった知り合い」なわけだし。
     でも、ぼくは内心おじさんの勘違いに動揺してるって認めないといけない状態だったんだ。

    JUGEMテーマ:連載


    よわむしなピンキーリング chapt.19

    • 2008.10.27 Monday
    • 23:46
     坂道を上り終わるとしばらく平坦な道が続いてる。ぼくたちの歩いている道路の左側は急勾配な原っぱになっていてガードレールで隔てられている。右側は家が何軒か並んでいて道路との間には今の季節は青々と茂っているいちょう並木がある。
     ぼくたちはさっきまで家が並んでた左側の歩道を歩いている。だから、ガードレール越しに原っぱの下に広がる住宅街やぼくがいつもバイト帰りに通る河川敷やら川がよく見えるんだ。
     ここはちょうど、ぼくたちの通う高校の近くの小高い丘の頂上なんだ。
     この街にはずっと住んでるけど、この丘の頂上は初めて。
     この丘から少し離れたところに小さな山が2つあるからこのあたりで一番ではないにしろ、それでも町中を見渡すには十分なロケーション。今日はよく晴れてるから街が遠くまで見える。豆粒くらいでよくわからないけど、ぼくの家の近所のあたりまでははっきりわかる。
    「わぁ……」
     ぼくは急に自分のすぐ横の景色が開けて頂上に着いた事に気がつくと小さな声をもらした。
     つい数歩……十数歩くらいかな、そのくらい前まで家が並んでたのが急に開放的な広い空間になったからなんだかびっくりしたんだ。
    「いい眺めだろ? で、目的地もすぐそば!」
     そう言って若宮さんは左手でぎこちなく道路の向かい側を指差した。しかも、左手を動かす前にギプスから出てる右手をちょこっと動かしたから、利き手は右手だったりするのかな?
    「あれですか?」
    「そう! 行くぞ〜」
     若宮さんは車の通りを左右に首を振って確認するとすたすたと道路を横断した。自転車を押してる分、小回りの効かないぼくはやっぱりいくらか遅れて若宮さんに着いて行く。
     そこにあるのは木の壁を北欧家具みたいに白く塗って、樽を使った植木鉢や誰かの忘れ物なのかお店の人の予備なのか分からないけど、傘の差してある鉄製の牛乳樽なんかが入り口においてある。
     なんだか、街中の小高い丘っていうよりも田舎道にぽつんと建ってそうな感じ。
     出窓があって、そこには木の肌が暖かそうな格子窓、白いレース。中には三つ編みの女の子の編みぐるみやらラベンダーやとうもろこしのドライフラワーが飾ってある。
     すごくかわいいお店。こんなところがあったなんて知らなかったってすごいもったいない気がする。
    「なんだか気に入ったみたいだな。とりあえず、自転車置いてきなよ。駐輪場は出窓の横だからさ」
     若宮さんはお店の雰囲気にすっかり魅了されたぼくとは対照的に、さっきまでと同じようにニコニコして言う。ぼくは言われたとおりにここまで押してきた自転車を出窓の右側にあった子供を乗せる台のついた自転車の隣に停めた。
    「予想通りの反応をしてくれたから連れてきた甲斐があるってもんだよ」
    「すごいかわいいですね、ここ! ……でも、若宮さんがこんなところ知ってるなんて意外かも」
    「私には似合わないってこと?」
    「あ、いや、そういうわけじゃ!」
    「正直に言っていいよ。ま、私が自分で好き好んで来るような店じゃないことは確かだな」
    「え?」
    「ここのアイスは好きなんだけど、ひとりで来るのは抵抗があるってことだよ。すごく気に入ってて時々、来たくなるんだけど、ひとりでは来た事ないんだ」
    「へぇ、そうなん、ですか?」
    「うん。ま、この店には最初はどっかみたいに『誰かに無理やり連れてこられた』んだからな」
     あ、そういう事か。
     ぼくをわざわざ連れてきたお店を「好き好んで来る店じゃない」とか変だと思ったけど、そこまで聞いて納得した。
     飯沼さんに連れてこられたんだ。
    「ま、そういうことだよ。今日は、ちょうどよく知り合ったばかりの看板娘クンが捕まったからちょうどいいかな、と思って誘ってみたんだ。しばらく来てなかったし」
     なんか、初めてここに若宮さんが連れてこられた時の事がすごく想像できて楽しい。
     若宮さん、文句言ったり嫌な顔とかしながらも最終的にアイスだけは気に入るとかそういう感じだったんじゃないかな。
     でも、そこまで考えて、ちょっと引っかかる事を思い出した。
     飯沼さんといつも一緒に来るここにたまたま捕まった知り合ったばかりのぼくを連れてきたって事。ぼくが思ったとおり、ふたりともケンカしてたりするんじゃないのかな……。
     その事を考えると、急に気まずい感じがした。
    「入るぞ。私も早くアイスが食べたいんだ」
     そう言って、若宮さんは左手でやっぱりぎこちなく厚い木の扉を押して中に入った。
    「あ、はい!」
     ぼくはちょっと頭をよぎった「余計なお世話」をあわてて頭の片隅にしまいこんで、自転車から開放された身軽さにまかせて追いかけた。
     ちょっと、若宮さんと一緒にこうして寄り道を出来るって事を嬉しく思ってたんだけど、そんなのんきな気分でいられないって気がして、ぼくはすごく複雑な心境にならずにはいられなかった。


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    よわむしなピンキーリング chapt.18

    • 2008.10.16 Thursday
    • 23:46
     学校を出発したぼくと若宮さんはいつも帰りに通る学校の前の並木道を10分くらい歩くと出る大通りに行かずにその途中で合流する坂道を歩いていた。
     ここの坂道を上るのははじめてかも。バイトがある日は遠回りしてる暇なんてないし、ゆっきとかと遊びに行く時は駅前にまっすぐ行くからね。坂道からだと確か、結構、遠回りになるんじゃないかな。
     それにしても。
     若宮さんとふたりで坂を上ってるとすごく緊張する。そもそも、ぼくは慣れてない人と話すのがそんなに得意じゃないんだ。お店ではなんともないけど、それは店員とお客さんって間だと話す事は決まってるからね。
     今日の場合はそれだけじゃないんだけどさ……。
    「小坂くんって、実は結構、無口だったりする?」
     若宮さんがいきなりからかうような口調で言った。
     ぼくはどうしてかちょっと動揺してペダルにすねをぶつけて少しバランスをくずした。
    「大丈夫?」
    「あ、はい……」
     ぼくはぶつかった拍子で前かがみになった体勢を直して「はははは…」なんて乾いた笑いと一緒に若宮さんの方を見た。
    「気をつけてな。今の私じゃ助けてあげられないぞ」
     そう言って若宮さんは左腕でハンドルをつかんで体勢を整えるのを手伝ってくれた。
    「すいません。ぼく、結構ドジで」
    「なんか、分かる気がする」
    「それはひどいです!」
    「冗談だよ。でもごめん、ちょっと面白かった」
     確かにぼくってドジなんだよね。お姉ちゃんにせっかく作ってもらったお弁当もよく忘れそうになるし、バイト中に傘のバケツやダンボールにつまづくなんて結構、日常茶飯事。実はグラスとか鏡を置いてるコーナーに近づくのがちょっとした恐怖だったりする。
     にしても、なんか、今日の若宮さんは「柔らかい」感じがするな。いつもは「鋭い」感じの格好いい人なのに。なんか、ゆっきとまではいかないけど、飯沼さんくらいに近く感じる。それこそ、お気に入りのモデルやタレントみたいに考えていたんだけどね。
    「なんか、そういうところ見てると親しみがわくな。看板娘って私も呼びたくなるよ」
     若宮さんは含み笑いをしながら言う。
    「ああいう店ってなんか、苦手意識あってさ。だから、その店員さんもなんて言うんだろ? 宇宙人って感じ?」
    「宇宙人?」
    「うん。不思議ってか、よく分からない感じにね。でも、こうやって話してると他の友達となんら変わらないなって思ってさ。結構、私って人見知りするんだよ」
    「そうなんですか?」
    「そうなんだよ。初めて会う人とはどうも話しづらくてね。一昨日も店で機嫌悪そうに見えてたかもしれないけど、そんなんだったのはそのせい」
     ぼくは一昨日、charm*に来た時の若宮さんの戸惑った顔を思い出してなんだか納得して、うんうんとうなずく仕草をした。
     人見知りで、多分、初めて行くところだと小さくなっちゃうって感じなんだろうね。
    「なんだよ? なんか、納得したような顔して」
    「あ、ごめんなさい。でも、ぼくもちょっとそれを聞いて親近感沸きました」
    「なんで? ってか、やっぱり怖いと思ってたんじゃないか?」
    「違いますよ。でも、ちょっと近寄りがたいっていうか、近寄っちゃいけないみたいな感じがしてたんですよ。会ったら緊張しちゃうみたいな」
    「どういう意味だよ?」
    「なんか、街で芸能人とすれ違ったみたいな感じです。オーラが凄いっていうか」
    「なんだよそれ? 私はそんな大層なものじゃないぞ」
     若宮さんは照れた様子で笑った。
     やっぱり、柔らかい感じだ。こうしてなんだか張り詰めたような格好よさが時々、崩れるのがなんだか面白い。
    「何、ニコニコしてるんだよ?」
    「いえ、なんか若宮さん面白いなって」
    「それは由実にいつも言われてるよ。君が看板娘って言われるのと同じでさ。ところで――」
     若宮さんは急に立ち止まってぼくの方を見た。ぼくも立ち止まってパチパチ瞬きをしながら若宮さんを見る。
     若宮さんはちょっとためらった様子を見せながら口を開いた。え、どういう事だろ……。
    「正直、看板娘って呼ばれるのどうなんだ?」
    「へっ?」
     ぼくは若宮さんが意を決したように聞いた事に拍子抜けして、さっきの様に小首をかしげた。
    「私も男扱いされる事、多いからさ。男子だったら余計に嫌なんじゃないかと思ってさ」「別に嫌じゃないですよ。飯沼さんに気を使ったりしてるんじゃなくて本当に。嬉しくはないですけどね。でも、看板娘って呼ばれて親しまれてるのは確かですから。そこは嬉しいです」
     若宮さんはぼくの言う事を聞くと「そうなのか」ってちょっと疑問そうな顔をする。
    「あと、実は女の子扱いは慣れてて。ぼく、お姉ちゃんがいるんですけど、そっくりなんですよ。だから、小さい頃なんかはお姉ちゃんの『双子の妹』って思われてたりしますから。あと、男らしくないのは自覚してます」
     ぼくは言葉を強調したくて、人差し指を立ててほっぺたの上に置いてわざと女の子っぽい仕草をしてみる。
    「確かにな。男らしさなら、私の方が上だ」
     若宮さんはそう言うと、笑いながらうなずいた。
    「ところで、小坂くん、アイスは好き?」
    「え? あ、はい」
    「そっか、なら楽しみにしててよ。もうすぐ着くからさ。この先においしい店があるんだ」
     そう言うと若宮さんは歩き出した。ぼくはそれに自転車を押して着いていく。
     アイスかぁ。アイスに限らず、甘いものが大好きなんだ。
     それにしても、若宮さんってよく笑う人なんだな。お店に着いたらもっといろんな事話したいかも。


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    よわむしなピンキーリング chapt.17

    • 2008.09.25 Thursday
    • 23:13
     靴を履き替えるとぼくは急ぎ足で玄関の外へ向かった。ゆっきと一緒に帰るときにこんなに急いだりしない。むしろ、ゆっくりすぎて怒られるくらいだ。
     多分、ゆっきに見られたらなんて言われるか。でも、そうじゃない、落ち着いて考えればゆっきとは中学から一緒で親しいけど、若宮さんはそうじゃないし、年上の人だよ? 待たせたりしたら悪いからね。
     今、「もしかしたら」って思ったのを今くらいは忘れておかないと。ちょっと、動揺してるのを無理な言い訳を自分にして押さえつけようとしてみた。
     玄関のガラス戸の向こうに若宮さんの姿を見つけるとぼくはそれまでの早足をやめて呼吸を整えた。下駄箱からここまでほんの少ししかないのに、ちょっとした距離を走った気分みたいだ。
     ぼくが出るよりも若宮さんがぼくに気がつくのが少し早かったみたい。若宮さんはぼくに気がつくと小さく手を振った。
    「そんなに急がなくていいよ」
     若宮さんは外へ出たぼくを見るなりそう言った?
    「え、あ……」
     ぼくは若宮さんの言葉にどうしていいのか分からず、そんなあいまいな返事をした。
    「ちょっと小走りだっただろ?」
    「あ、はい。待たせちゃ悪いかなっと思って」
    「別にちょっとの間だろ? ん…」
     若宮さんはいきなり、眉をひそめて困ったような顔をした。
    「私、そんなに怖そうに見える?」
     そして、いきなりやっぱり力のあるその目でぼくを覗き込んで急に心配そうに聞いた。
    「え?」
     ぼくは訳が分からず、ゆっきたちから「そこが女の子に見えるんだよ!」って言われる首をかしげるしぐさをした。言っておくけど、これは癖で、どうしていいのか分からないと自然にやっちゃうんだ。
    「あ、いやさ。それで小阪くん急いで来たのかなと思って。私さぁ、結構、後輩から怖がられてるんだよね。別に特別、厳しいつもりはないんだけどね」
     そう言って苦笑いをする若宮さん。
     そうなんだ。怖いって……。まぁ、確かに厳しそうには思えるかも。のんびりしたぼくには想像もつかないくらい、張り詰めた雰囲気で練習をしてるのを練習場の開いた窓から見た事があるから想像はつく。
     でも、よく知らない状態で困った顔してる所を店で見ちゃったからね。ぼくにはあんまりそれだけでは見られないかな。
    「そんな風には、少なくともぼくは思ってないですよ」
    「そっか。でも、『少なくとも』ってのはちょっとひどいな」
    「あ、ごめんなさい…」
    「いいよ、いいよ。小阪くんはそう思ってないってだけで安心だわ」
     若宮さんはそう言って一歩歩き出すと、駐輪場の方を指差した。「行こう」って合図。ぼくも一、二歩先に進んだ若宮さんの後をついて歩き出した。
     何となく、今の言葉でで昨日、一昨日と飯沼さんがcharm*に若宮さんを連れてきて、レターセットを押し付けたり、アクセサリーやバッグを選ばせてた理由が分かった気がした。
     怖いって言われるのを気にしてるんじゃないかな。それで、怪我をして部活を休まなきゃならない今のうちにすっかり女の子らしく変わってびっくりさせようと考えるとか。
     飯沼さんなら面白がってそういうことやろうとしそうだもん。それだったら「男前って言われるのを気にしてる」っていう言葉も納得いく。
     確かにへたな男子よりも格好いい人だからね。そんな人が真剣な顔をしてたら怖いと思う人だっていたって不思議じゃない。それに言葉遣いが結構、ぶっきらぼうだよね。それも大きいかも。というよりも、それが大きいかな。
     そんな若宮さんがガーリーな格好をしてるのなんて想像付かないけどね。若宮さんの私服姿って見たことないけど、すごくボーイッシュな格好しか浮かんでこないや。
    「なんか、いい事あったの? なんか嬉しそうだな」
     すっかり想像に夢中になってたぼくを若宮さんの言葉が一瞬で現実に引き戻した。
     今、ぼくはどんな顔をしてたんだろう。嬉しいってより、楽しいって方が合ってるけど、それがなんでかはさすがに言えないよね。
    「今日は、ほら、バイトが休みなんで! つい」
     ぼくはわざとらしく「あははは」なんて笑いながら言う。なんか、自分でもバカみたいだ。
    「まぁ、気持ちは分かるよ。わたしもちょうど部活が休みだからさ」
     若宮さんはそう言って右腕のギプスを見せる。笑いながら見せるけど、骨折の経験のないぼくにはとても痛々しそうで笑ってそれを見せてるのが信じられない。
     どう返していいか分からなくなってて困ってると、それを察したのか若宮さんが「自転車は?」って聞いてきた。
     ぼくは「あれです」って端にある自転車を指差すと、ぼくらは少し足を速めて自転車までたどり着く。
    「どうぞ」
     そう言ってぼくはカゴの方を向きながら自転車の鍵をはずし始めた。
    「悪いね。じゃ、お世話になります」
     若宮さんはぼくのカゴにちょっと遠慮がちに鞄を入れる。
    「いつも大通りで帰るの?」
    「あ、はい」
    「それじゃあ、今日はちょっと寄り道になるな」
     若宮さんはニコニコしてそう言った。
     ぼくは若宮さんのそんな顔を鍵を開けて顔を上げてまっすぐに見てしまった時になんか「しまった」って気になった。息がつまるような変な感じがして急に怖く感じて、玄関で保留にしようと思った事を思い出さずにいられなかったんだ。


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    よわむしなピンキーリング chapt.16

    • 2008.09.14 Sunday
    • 17:28
     あの後、バイトは何事もなくいつもどおりに終える事ができた。閉店前の二時間は相変わらず、OLさんとか大学生とかでにぎわうし、間違って洗剤とか生活用品を買いに来るおばさんもいるし、彼女と一緒に来てなんとなく居辛そうにしてる男の人なんかもいたりとごく普通の店の日常だ。
     ぼくもいつも通りに働いてたんだけど、ふとした時に飯沼さんが怒って、若宮さんが困ってた様子が気になったりもしてた。
     飯沼さんのあんなところ初めて見たな。
     それにここ二日、急に若宮さんを連れてきた事も、若宮さんが怪我をしてた事もぼくには関係ない事ではあるけど何かあるんだろうなって気がして頭から離れないんだ。
     ぼくはホームルームが終わってすぐ、そんな事を考えながら教科書やノートを鞄にしまって帰る準備をしていた。
     この後、どうしようか。
     今日はcharm*がお休みの日。charm*は定休日を特に決めてはいないんだけど、月に3〜4回のお休みの日がある。
     こういう日はゆっきと一緒に街に遊びに行ったりするんだけど、今日は部活のある日で遊ぶのは無理。朝子も育枝も今日に限って都合が悪いみたいだし。
     今日はぼくが夕飯を作ろうかな。お姉ちゃんはバイトの日だからきっとお店で何かしら買ってくるだろうけど、「ぼくが作るからいらないよ」ってメールしておこう。
     それがいいかもね。たまには家でゆっくりするのもさ。
     掃除当番の人たちの邪魔にならないように教室から出ると、携帯を取り出してお姉ちゃんにメールを送った。まだバイトの時間じゃないからすぐに返事が返ってくるだろうね。
     ゆっきもそそくさと部活に行っちゃったし、朝子も育枝も見当たらないから、もう帰ろうかな。
     軽くのびをして、ぼくは教室のすぐ前にある階段を下りて玄関に向かった。
     やっぱりこの時間の玄関のあたりは結構にぎわってる。帰る人もいるし、運動部の人なんかは外で練習したりするからね。
     たまの何にもない日だからか何だか落ち着かない気分でぼくはそのにぎやかさにまぎれていた。時々、クラスメイトや先生とすれ違って挨拶をしたりしながら。
     あ……。
     若宮さんがいた。それもひとりで。
     今日は飯沼さんと一緒じゃないのかな? それとも、後で合流する約束してるとか。
     でも、昨日のあの様子だと、ケンカして顔も合わせられないような状態とかってのも考えられるね。
     どうしよう? 声をかけようか? 気になるけど、ぼくが気にする事じゃないのかもしれないし。もしかしたら、何もないかもしれないし。
     まぁ、でも……。
    「こんにちは。今、帰るところですか?」
     別に昨日の様子がどうとか関係なく、やっぱり知り合いにあったら気がつかない振りなんてよくないだろうしね。
    「あ、えっと……小坂くん。ああ、ちょうどね。今は部活もやってないし」
     背の高い若宮さんはチビなぼくを見下ろすかたちで笑顔で言う。
     すごい柔らかい笑顔。なんか、凛とした鋭い感じの人だと思ってたから、こういう顔をするのは意外だな。
    「剣道部は……」
    「今は休部中なんだ。ほら、この通り怪我してるし、それにちょっと考えたい事あってさ、気持ちの整理をする時間が欲しいってのもあって。ところで、小阪くんは今帰り?」
    「あ、はい」
    「そっかぁ、じゃあ、これからバイトだ」
    「いえ、今日はないんです。charm*がお休みの日だから。だから、これからうちに帰るところなんです。若宮さんは?」
    「まっすぐ帰るところだよ。私も今日は暇なんだ」
     ぼくは若宮さんが「暇」って言った所にちょっとだけ、変だなって思えるところを感じた。ちょっと強調したような感じが。
     やっぱり、飯沼さんとケンカして今日はひとりなのかな? いや、でも、単にバイトって事もあるだろうしな。どっちにしろ、聞くに聞けないよね。
    「ところでさ、小阪くんってどこに住んでるの?」
    「え?」
    「あ、いや、もし、帰る方向同じだったら一緒にどうかなと思って。途中、コンビニに寄ってなんかおごらせてよ。なんか、迷惑かけちゃったしさ、ほら、店で」
     ぼくは若宮さんの言ってる事に目を瞬かせた。そして、本当に一瞬だったんだろうけど言葉の意味が飲み込めなかった。
     迷惑、店で……?
    「ほら、結構長い時間、付きっ切りにさせちゃってさ。他にやることもあったんだろうし」
    「あ、そんなことないですよ! それに、店員として当たり前の事しただけなのにそんなの悪いです!」
    「気にしなくていいよ。わたしって暇なのに慣れてないから、一緒に時間つぶしてくれる人がほしいだけだから」
     若宮さんは身長の低いぼくの顔を覗き込んで言う。やっぱり目が力強い感じがしてちょっと落ち着かない気分になったけど、気がつくと「そこまで言うなら」って言って、家のある町名を言ってた。
    「そっかぁ、それなら私の家は途中だ」
     そう言って、若宮さんは笑う。
     若宮さんって無口な人だと思ってたけど、結構しゃべるんだな。
    「あ、じゃあ、ぼく、靴履き替えてきますね。あと、自転車で来てるんで、よかったらかごに鞄入れちゃってください。それじゃあ、後で!」
    「うん、ありがとう。出た所で待ってるよ」
     ぼくは早口で言うと、一年生の下駄箱まで全速力で走っていった。
     走ってる時、ぼくは体中で落ち着かない変な感じが駆け巡ってる気がした。
     これ、もしかして、朝子の言う通りなのかな。間近で若宮さんの目を見て胸の、多分、心臓の辺りが揺れたり溶けたりするような感じがしたんだ。
     初めてだから分からないけど、これって本当に若宮さんに対して一目惚れってやつなのかも。
     それで、その若宮さんとこれから一緒に帰るんだよね。
     どうしよう、落ち着かないと。とりあえず、この事を考えるのは家に着くまで保留にしないといけないよね。多分。


    JUGEMテーマ:連載


    よわむしなピンキーリング chapt.15

    • 2008.09.09 Tuesday
    • 22:48
     どうして「残念」なんて的外れな考え方をしたのかはわからない。若宮さんがどういう人かなんて、すれ違う、うわさを聞く以外の事で知る事なんてないわけだから、残念も何もないはずだよ。
     でも、その的外れな考え方はぼくの中でちょっと何かにぶつかったような感覚を起こしていた。ぼくは考え事をしてるふりをして少し下を向いてちょっとだけ頬をふくらます。
     だけど、考え事をしてる暇なんてないみたいだ。
    「智さぁ、今日はバッグを買いに来たのよ。この子さ、あんまり地味だから、少しはなんていうの? おしゃれをするとか、ちょっとは何かしら身に着けるものに女の子らしさがあってもいいなと思ったのよ」
     そう言うと、飯沼さんはバッグコーナーに並んでる商品を一つ手に取る。
    「そりゃね。部活は忙しいし、本人も自覚してる通り背も高くてへたな男の子よりも格好よかったりするけど、多少はかわいくする事も大事だと思うのね。だってさぁ、今のままならるいちゃんの方が確実に女の子らしいよ。男の子に負けてるんだよ!」
     ちょうど、ふたりは背中を向けてる状態だからわからないだろうけど、ぼくの目には飯沼さんの言葉に笑ってる磯谷さんが見えた。そして、笑ってるだけじゃ足りないのか磯谷さんは「ま、うちの看板娘は乙女の鑑ですから」と言う。飯沼さんはそれを聞くとちらっと振り返って「ですよね〜」って言う。ぼくは磯谷さんにわざと目を合わせて苦笑いをしてやる。
     若宮さんは飯沼さんの言葉に相変わらずむっとした顔をしてる。なんか、見てると、飯沼さんの言う事が本当なのか疑わしくなってくるな。飯沼さんがムリヤリ若宮さんにかわいいものを持たせたいみたい。
    「まぁ、どのみち遊びに行くのにスポーツバッグはないかな、と思ったのよ。それに、元々、新しいバッグを買うつもりなんでしょ?」
    「それはそうだけど……」
    「なんか、嫌そうね」
    「いや、やっぱり私には似合わないような気が……」
    「あんまりかわいすぎるのだとね。ほら、トートとかだといいんじゃない? しばらくはあんた右手使えないんだから。楽なほうがいいでしょ?」
     飯沼さんはトートを吊り下げてるハンガーラックから色んな形の鍵がプリントされたトートバッグを選んで若宮さんに差し出す。
     若宮さんはトートバッグのデザインを上から下まで眺めると、困ったような顔をする。
    「これはかわいすぎないか?」
    「そう?」
    「ピンクはないと思う」
    「そっかな?」
    「私が持ってたら笑いものだ」
    「そんな事ないよ。普通に男の子がピンクのTシャツ着てたりするよ。今日、すれ違ったサラリーマンの人もピンクのストライプ入ったワイシャツ着てたし。それに、あたし、智にはピンクって似合うと思うんだよね」
    「でもさ……。どうも、女の子っぽすぎるっていうか……」
    「あんた、女の子でしょうが!」
     飯沼さんは大きな声でそう言うと、頭を抱えて軽くよろける。
     他にお客さんがいなくてよかった。いきなり、大声出す人がいたらびっくりしちゃうよね。
    「女の子が『女の子っぽすぎる』ってどういうことよ? まさか、自分の事を男の子だと思ってるわけじゃあるまいし」
    「そうじゃないけど……」
    「じゃあ、他のも見てみる? これだけあれば、何かは気に入るでしょ」
     そう言って、飯沼さんは若宮さんのバッグ選びを再開する。
     しばらく眺めてたけど、少しするとカウンターで磯谷さんが手招きしてるのが見えた。ぼくはそれを見るとふたりの邪魔にならないように磯谷さんの方に駆け寄る。
    「はい?」
    「ここはゆっくり選ばせてあげましょう。るいちゃんは、表の掃除を頼めるかな?」
    「あ、はい」
     ぼくはふたりの様子がが気になりながらも、返事をするとまっすぐに事務所から掃除道具を持ってきて店の前の掃除を始める。
     charm*の入り口には大きな窓があるから外からでも店の様子が見えるから、掃除をしながら様子を伺っていよう。
     それにしても。今日は若宮さんが来てから気持ちが落ち着かない。本当にどうしたんだろう? すれ違うたびにクールな印象の若宮さんが友達の飯沼さんに振り回されてるっている姿とか、イメージと違うところを見るたびになんだか悔しく思えるんだ。
     別にイメージと違うって、遠目で見た印象なんだから違って当たり前なのに。
     朝子のせいだよきっと。
     それとも、言われたとおりだとか? まさかね。
     店の様子なんか頭から消え去って考え事と掃除に集中していたら、ドアから飯沼さんと若宮さんが出てきた。
    「ったく!」
     ふたりが完全に外に出るとなんだか飯沼さんが怒った様子だった。若宮さんはというと、すごくバツ悪そう。
    「あ、ごめんね、るいちゃん。智さ、いきなりは決められないみたいで、もう少し考えて見るってさ」
     ぼくに気がつくと飯沼さんは急に笑顔を取り繕った。そして、そう言うと「ほら、行くよ」って言ってそそくさと行ってしまった。
     若宮さんは去り際に小さく会釈する。なんだか申し訳なさそうな顔をして。
     ぼくも反射的に会釈を返す。そして、なんだかその様子に圧倒されてぼくはふたりがすっかり遠くなったのに小さな声で「あ、はい」と無駄に返事をしていた。
     何があったんだ?
     掃除が終わったのもあるけど、状況がつかめなくてぽかんと開いたようなその場の空気にじっとしてられなくてぼくは店の中に戻った。
    「おー、終わったかい? おふたりさん、帰っちゃったよ。まぁ、トートは安いけど、学生さんには大きな出費だからね。『考えてみたら?』って言ったらそうするってさ」
     磯谷さんはふたりが選んだ後のトートバッグ用ハンガーラックを整えながら言う。
     ぼくはやっぱり状況がつかめなくて、小さな声で「あ、はい」って言うしかなかった。


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    よわむしなピンキーリング chapt.14

    • 2008.08.27 Wednesday
    • 00:19
     「由実ちゃん、昨日来てくれたんって?」
     それまでぼくとしていた話を磯谷さんはドアから入ってきた飯沼さんと若宮さんの方へ行った。
     二人がやって来たのは、ちょうど他のお客さんのいないタイミング。だから、ぼくと磯谷さんは話し込んでたりしたわけだけど。
    「あ、はい。そりゃ、charm*にスイーツコーナーが出来るっていうなら、スイーツ好きのcharm*ファンとなれば来ないわけにはいかないですよ!」
     飯沼さんは大げさなジェスチャーをしながら言う。
    「うれしいこと言ってくれるね〜」
     磯谷さんは腕を組んで目を細める。ぼくはそんな磯谷さんごしに鏡を並べてある棚のところで若宮さんと飯沼さんを眺めてた。
     昼休みの話のせいだ。どうしても、若宮さんに必要以上に目がいっちゃう。
     なんか、落ち着かない感じ……。
    「ほれ、看板娘ちゃん、お仕事だぞ!」
     そう言って、磯谷さんはぼくの方を見て口元を緩める。ぼくは少しだけぼけっとしてたから、ちょっとだけぴくっとして慌て気味に磯谷さんの方を見る。。
     そして、指をいったんぼくの方に向けて、それを若宮さんと飯沼さんの方に動かす。これは接客しろって事だね。
    「ん、じゃ、わたしゃレジにいるんで困った時はよろしく」
     そう言って磯谷さんは歩幅を広めにレジとは反対方向になるぼくのいる鏡の棚の方へ来た。
     すたすた歩いて、ぼくの前で立ち止まると――
    「あの子だね、昨日言ってたの。格好いいじゃん」
     ――って小声で言った。
     だからわざわざ遠回りしたんだ。できれば、そういう冗談は今日は勘弁して欲しかった。余計に昼休みに話した事――特に朝子に言われた事を思い出しちゃうよ。
    「あ、こんにちは」
     ぼくは飯沼さんと入れ違いで二人の前に来るとそう挨拶した。
     何だろう、やっぱりぎこちない感じがする。それに、「あ、」って付けちゃったのがすごく変だし。
    「お、看板娘ちゃんだぁ。今日もキュートだね!」
     飯沼さんはハートマークが語尾に着いてるみたいな、どちらかというと「行きつけのお店の店員」というより「お気に入りのぬいぐるみ」に言うような口調で言う。
     今日は磯谷さんっていう「からかい仲間」がいるから昨日よりも勢いがある気がする。飯沼さんからすれば昨日はにぎわってる土日にいるのしか知らない桜庭さんとぼくだったから、ぼくをこうやってからかっていいのか分からなかったのか、いつもより控えめな感じだったからかも。
     それでも、勘弁して欲しいと思わないわけじゃないけどさ。
    「由実、いっつもこうなのか?」
     若宮さんが呆れるように小さな声で言いながらで飯沼さんに目を細める。
    「こう、って何よ?」
    「だから、その――」
     若宮さんは言葉を半端な所で止めてぼくをちらっと見る。えっ、どうしたんだろう?
     すぐに飯沼さんの方へ目を戻したけど、若宮さんと目が合って、ほんの一瞬の事なのに体中の動きが封じられたような変な感じがした。
    「――小阪くんをそうやってからかうのってさ」
     あ、ぼくの名前を確認したのか。目が合った気がしたけど、見たのは胸元だったんだ。
    「からかうって。別に悪口言ったりしてないでしょ? 本人だって悪い気してないはずよ。ねぇ、るいちゃん?」
    「あ、はい!?」
     ふたりの会話を聞いてるようで聞いてなかったぼくは急に自分に話を振られた事に驚いて変に裏返った声で返事した。
    「ごめんな。こいつがいっつもあんたの事、『看板娘』とか言って。男なのにそんな風に言われたら嫌だよな……」
     若宮さんは自分の事でもないのに申し訳なさそうに言う。まぁ、確かに「勘弁してほしい」とは思うけど、謝られる事とは違う気がする。
     もしかして、若宮さんってすごく真面目な人で凄く大事に受け取っちゃったのかな?
    「あ〜、別に嫌じゃないですよ。嬉しいかと言われたらそれも違いますけど。ほら、冗談みたいなものだし、お客さんにも気に入られてるって気がするし」
     ぼくは変な愛想笑いみたいな顔をしながら、若宮さんに「大した事ありません」って伝えようと思いつく限りの言葉を並べる。
     そんな様子を当の本人の飯沼さんはニコニコしながら見てる。
    「そうよ。別に『看板娘』だってちょっとしたニックネームじゃん。あたしなりのほめ言葉のつもりよ。あんたは何でも真に受けすぎよ」
    「だけど、男に『女だ』って言うのは……」
    「まぁ、智は『男前』って言われるの気にしてるもんね」
     飯沼さんは腕を組んでわざと若宮さんに背を向けて横目で見る。若宮さんはそれに少しだけムッとした顔をする。
    「それも冗談よ。それに、あんたもるいちゃんの事、女の子だと思ってたじゃない」
    「それは……!」
    「それは?」
     若宮さんは口では飯沼さんに叶わないのか口をつぐむ。飯沼さんはそれを面白がるように横目で見たまま口元を緩めて笑ってる。
    「あの、別にぼくは女の子扱いされるの慣れてるし気にしなくていいですよ。間違われるし」
     ぼくがそう言うと飯沼さんは「だってさ」って若宮さんに言う。
    「ごめんね。智ってさ、この通り生真面目で頭が固いからさ。かえって気分悪くならなかった?」
    「いえ」
     飯沼さんの言葉にぼくは笑顔で答える。
    「それよりも、今日は買うもがあるのよ。ほら、こんなところで冷やかしになってる場合じゃないわ。ってことで、こっから本題。よろしくね看板娘ちゃん!」
     飯沼さんはウインクしながらそう言うと、若宮さんを店の奥まで押していった。
     ぼくはそんな様子を見て、ふたりにも磯谷さんにも分からないように小さくため息をついた。
     飯沼さんは若宮さんを「生真面目」とか「頭が固い」とか言った。それっていつもなら「ひどい事言うな」とかで片付けるんだろうけど、今日はなんだかそんな風に言われてる事を知らなかった事がなんだか残念だって思えたんだ。
     

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